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日本財政を斬る――国債マイナス金利に惑わされるな

米沢潤一(元大蔵省関税局長、元日本銀行理事)

出版年月2016年7月

ISBNコード978-4-909560-50-9

本体価格  2,400円

四六判

頁数・縦200

内容 はしがきより

 わが国財政が破綻に瀕していることが叫ばれ続けて久しい。いわく、「家計にたとえれば年間六〇〇万円の収入で支出九六〇万円超の生活を続けている結果手取り年収二〇年分のローン残高を抱えている状態」とか、「政府の債務残高が、G7諸国中唯一国内総生産(GDP)の二倍を大きく超え、あのギリシャ(一・九倍)よりも数字の上ではずっと悪い」とか、「国民の虎の子の貯蓄もそのほとんどが政府の借金に回ってしまっている」とか、耳にタコができるほど聞かされ、書店の棚には国債暴落Xデーなどに関するセンセーショナルな題名の書物が並んでいる。にもかかわらず、国民一般にさほどの切迫感がある様子はない。「だからどうだというの」「財政が苦しかろうがどうであろうが、差し当り私の生活には関係ない。むしろそんなことをいって税金を上げられたり、年金を減らされたりするのが困る」という空気がいまだに支配的である。
 しかし、財政はだれのものか? いうまでもなく国民のものである。古今東西の実例が示す通り、国家財政の破綻は、大増税か、悪性インフレか、貯金が返ってこなくなるのかなど、態様は様々であるにしても、国民生活の破綻そのものである。現状、もう一刻の猶予もないほどその危機が迫っているのに、そのことが共通の認識として広く国民に共有されなければ、ここから脱出するための長くて辛い道は開けない。
 「ローマは一日にして成らず」というのは本来良いことに使うたとえで、こういう時に使うのは逆であろうが、制度としては世界でも最も厳しい財政節度が法定されているはずの日本で、財政がここまで悪くなったのには長い長い物語がある。何度も「これではいかん」と財政再建のための努力が試みられた。しかしながらこれがことごとく挫折し、禁煙に失敗した人が前よりひどいヘビースモーカーになるがごとく、さらなる悪化をみた歴史の繰り返しである。この財政危機状態から脱するために、今後何をなすべきか、何をしてはならないか、温故知新、教訓は歴史の中にある。
 国債はその財政の収支の差額であり、その来し方をたどることで、最も端的に財政の歴史を知ることができる。しかし国債の持つ意味はそれだけに止まらない。
 国債は国の借金であり、何らかの金融的メカニズムを通じて国が国民の貯蓄を吸収する手段である。逆に金融市場の側からみれば、信用力・流動性ともに優れた金融商品が市場に提供されるということでもある。戦後の国債発行が再開された昭和四〇年度の金融資本市場は、まだ戦前を引きずっているような、分野・制度によってはむしろ戦前よりも退化した、鎖国的で、カルテル体質の規制市場であった。それが今日のように過度にまで自由化、高度情報化、グローバル化した金融資本市場に発展するについては、やはり半世紀にわたる長い波瀾万丈の物語がある。しかもわが国においては、昭和四〇年代「御用金」とまで悪口をいわれていた国債が、次第にこの市場の発展を牽引する原動力に脱皮していった。従って、わが国金融資本市場発展の歴史を知る上でも、やはり国債の歴史が重要な道しるべとなる。
 筆者は、国債発行開始の二年前に旧大蔵省(現財務省、以下本文でも当時の名称で大蔵省と表示)入省後、三〇年余の同省生活の大部分を何らかの意味で国債に関わる仕事に携わり、日本国債の重要な歴史の節目節目を現場で直接つぶさに見聞してきた。退官後も日本銀行理事として今度は対岸から国債を観察したり、大学院の客員教授などとして、引き続き日本国債というテーマに取り組んできた。そうした「語り部」の一人としてこの歴史の教訓を語り継ぎたいと考えている。
 そこで平成二四年一一月からまる一年にわたり、金融ファクシミリ新聞に「国債の戦後史 財政・金融」と題して、国債の来し方を長期連載し、完結後の二五年一二月これを、一般社団法人金融財政事情研究会から『国債膨張の戦後史』という単行本として出版した。国債の現状と将来展望に関心をお持ちの読者に対し、財務省その他から提供されている情報や国債をテーマとする多くの既存の書物とはやや趣向を変えて、こうした国債の移り変わりについて、その背後にある時代背景とこれに対する当局の考え方や政策意図を、時には示唆に富むエピソードも交えて紹介し、歴史の中にある教訓を探って頂く一助としようと意図したところであった。参考文献や関係資料の収録も充実し、さらに突っ込んで研究したいと思われる読者の便宜にも資するように努めた。
幸い、主にこのテーマに地理感のある読者からご好評を博し、冨田俊基先生、高田創先生はじめ、オピニオンリーダーの方々からの有難い書評も頂いた。アマゾンのカスタマーレビューでも好意的なコメントが載っている。
 ただ、何分時の流れに沿った解説調歴史物で、数字が多くてやや硬く、今一つアクセントが不足している嫌いがあるとか、もともとが新聞の連載で毎回の字数に制限があったために十分に意を尽くせなかった面もあるなど、反省点も多々出てきた。
 そこで平成二七年一〇月金融ファクシミリ新聞に、国債発行五〇周年記念の短期集中連載を載せたのを契機に、今回、研究者のみならず国債の取引に関わっておられる実務家はじめ幅広い読者層を対象として、自由な物語風にまとめてみた。時系列的に歴史を追うのではなく、例えば財政規律喪失と戦争の記憶の風化というような社会的風潮の関連とか、ニクソン・ショック以来の世界経済環境、外圧がわが国財政に及ぼした影響(いわゆる二つのコクサイ化が実は相互に関連していること)とか、国債市場の参加者相互間の利害対立、葛藤が市場発展にどのように影響したかとか、政治や政府各省庁の力学が財政にどのように作用したかなど、テーマごとに、歴史の節目節目で主要アクターがいかに行動したか、どんな言論があったかなどを具体的事実に基づいて考証し、今では知る人も少ない象徴的なエピソードや、筆者しか語らない秘話もできるだけ織り交ぜた類書にない″読み物〟とした。
 実務家にとっては、毎日毎日売り買いして、その相場動向に一喜一憂している日本国債という商品が、実はどんな経緯で誕生し、どんな意味を持ち、どんな生い立ちをたどって今日に至ったのかを知って頂ければ、日々の仕事の対象である国債に新たな愛着が湧いてくるのではないかと期待しており、またこれまで財政や国債などに関心の薄かった読者には、こうした物語を通じて興味を持って頂き、破綻寸前の危機に瀕している財政の現状認識と危機感、そして今後進むべき道についての理解が共有される一助となることを願うものである。
本書の構成は、「第一章 日本の国債発行を制限している厳しい制度と運用の現実」「第二章 国債発行・流通市場(その一)―誕生から暗黒時代まで―」「第三章 国債発行・流通市場(その二)―市場発展の原動力―」「第四章 国債残高膨張をもたらしたもの」「第五章 財政は誰のものか、進むべき道」の五章からなるが、各章の概要ないし狙いは以下の通りである。
 第一章では、今日のような財政破綻状態を招いたのは、予算や財政の制度に欠陥があったせいではなくその運用にあったことを、歴史的事実や関係者の言などに基づき、様々な観点から検証する。わが国の財政法は、制定当時の立法当事者自身の解説によれば、軍事公債の反省から憲法第九条と表裏一体のものとして、世界でも最も厳しい財政規律を規定していた。これに基づき戦後二〇年間均衡財政が堅持されていたものが、その後奇しくも一〇年ごとに特例法という形でタブーが破られていった。この歴史を、知られざるエピソードも交えながら概観する。
 第二章と第三章では、日本国債の消化、市場発展の歴史の中から学ぶべき教訓を探る。先ず第二章では、草創期の原始的国債消化の実態を示し、これが国債の大量発行などで次第に維持不能となり、ついにロクイチ国債騒動に始まる国債暗黒時代に至った過程を紹介する。ここで特に強調したいのは、ロクイチ騒動が単なる過去の物語ではなく、将来日本国債への信認が失われた暁には、従来と比較にならないほどの深刻さで再現しかねない危機であり、現にその危機のマグマは溜まっているということである。国債暗黒時代からの脱却のためには財政再建のために、長く、血の出るような努力が必要であった。これを踏まえて、将来への教訓は正攻法で地道に取り組むほかないということを訴える。
引き続き第三章では、財政面での努力と並行して払われた、国債消化面(金融面)での多様な工夫と努力が、金融自由化の尖兵となってこれを推進し、わが国金融資本市場発展の原動力となった過程をたどる。債券金利自由化のきっかけとなった「金国分離」、難産の結果実現した悲願短期国債の誕生、消費税導入までからむ国債の郵便局窓口での販売の実現など、金融資本市場史上の画期的出来事について、当事者として現場から証言する。併せて国債の個人消化についても一言付け加える。
 第四章で再び財政面に戻り、国債残高のとめどなき膨張をもたらす原因となった歴史的出来事、政治社会的背景や各アクターの言動などを様々な角度から検証・分析する。健全財政原則の一八〇度転換のきっかけとなったニクソン・ショック以来、何度となく繰り返された財政再建努力がことごとく失敗した元凶は円高恐怖への過剰反応と経常収支黒字への外圧であったことを回顧した後、プライマリー・バランス赤字と金利による国債残高膨張のメカニズムをやや計数的に分析し、さらに歳出膨張を招いた政治社会的力学を実体験も交えて解明する。歳入面では消費税の導入と増税を財政の収支というだけの角度で見ると、今までのところまだマイナスだというショッキングな話もする。その上で国債円滑消化のための努力の奏功が、かえって市場からの警告を失わせ、国債膨張の歯止めを失わせたという皮肉な結果に言及する。
 第五章は締めくくりとして、財政破綻とは取りも直さず国民生活の破綻であることを訴え、巷に流布するいくつかの根拠なき楽観的俗説に反駁する。筆者の狂乱物価時代の予算での実体験を踏まえた、「インフレで国債残高を帳消し」という「危険な幻想」へ反論するオリジナルな計数的シミュレーション(一般財団法人民間都市開発機構 都市研究センター機関誌“URBAN STUDY” 平成二七年六月号所収の拙稿「戦後70周年・国債50周年 二つのコクサイ化を振り返って」に収録)は、ぜひ理解して頂きたい本書の目玉のひとつである。最後に進むべき道として、財政、ひいては日本経済への危機意識の共有と今後しばらく飲むべき苦い薬への理解を訴え、一刻も早いPB黒字化を訴える。将来二%インフレ目標が視野に入り、金利が正常化する際の課題についても簡単に触れたい。
なお、本書は主に一般会計普通国債を対象としている。用語として「公債」と「国債」が新聞等でもしばしば混在する。法律用語としても、財政法は「公債」といっているが、一方「国債に関する法律」では「国債」となっている。法律制度ないし予算の歳入をいう時は「公債」、発行され流通する証券としては「国債」というとの一応の区別であろうと考えられるが厳密に区別はされていない。この意味では建設債・特例債を区分する時は、本来建設公債、特例公債と呼ぶべきなのであろうが、本書では熟語や引用関連部分などを除き、原則、一般に馴染にある「国債」という用語で統一した。

目次

まえがき


第一章 日本の国債発行を制限している厳しい制度と運用の現実
第一節  財政法四条は憲法九条の裏書保証 
第二節  国債と戦争の連想エピソード 

財政の今日を予言した谷村論文/新入生に「戦前大蔵省の原罪を忘れるな」と訓示した秘書課長/「大蔵官僚が軍事公債正当化」と誤読された『公債のはなし』/四次防修正、水田三喜男大蔵大臣「政治家の感性」/予算での建設公債発行対象経費と国債発行額との関係
第三節  特例国債、一〇年目の節目ごとのタブー破り 

昭和五〇年度特例国債依存/大平正芳大蔵大臣の苦衷/単年度立法とした特例法/反故にされた特例国債の借換禁止/インクの色が違う/雲散霧消した? NTT株売却代金

 

第二章 国債発行・流通市場(その一)――誕生から暗黒時代まで―― 

第一節  挙国一致型シ団消化 

引受シンジケート団の発足/内包するジレンマ・愛憎二様/乗換強制・売却制限/因縁の五年債、多様化のスタートとアンカー

第二節  国債暗黒時代 

ロクイチ騒動/休債/「スト破り?」一五年変動利付債/公募入札の未達も

    
第三章 国債発行・流通市場(その二)――市場発展の原動力―― 

第一節  金融自由化の尖兵へ 

国債窓販、ディーリングの開始/きっかけはコロンブスの卵から/飛ぶように売れ、火種論まで出現/手数料変遷は国債史の縮図

第二節  短期国債誕生秘話 

国債大量借換えの要請/国際金融上の要請/最大のハードル、都長銀の抵抗/国庫・財政制度面のハードル/政府短期証券とこれを巡る大蔵・日銀の相克/幻の国債資金(堀)構想/税制の壁/あえて先送りした商品設計/短期国債その後の発展

第三節  郵貯窓販実現まで

郵貯の歴史的貢献と肥大化/郵貯懇報告から決定的対立へ/大型間接税導入と郵貯課税の多元連立方程式/歴史的な政府・党合意

第四節  国債市場の高度化・グローバル化、シ団の終焉 

外銀・外証の国内市場アクセス改善と海外投資家のプレゼンス/シ団離れからシ団の終焉へ/金融技術革新への対応/個人消化の促進

第四章 国債残高膨張をもたらしたもの 

第一節  すべての始まりはニクソン・ショックから 

ニクソン声明の概要と世界史的意味/黒船再来にも比すべきニクソン・ショック/財政政策の一八〇度転換/スミソニアン合意と円高恐怖の原点・政府声明/調整インフレ、列島改造から福祉元年予算へ/特例国債依存後も外圧で国債大増発/数次にわたる財政再建努力挫折の元凶は対外要因  
第二節  国債膨張の仕組み 
国債残高増加はPB赤字と金利の合計/平成三二年度PB均衡目標/国債利払費についての試算/国債償還費のからくり、交付・出資国債  
第三節  歳出膨張を招いた政治的・社会的力学

「小さく産んで大きく育てる」/現状を糊塗した悪智慧と大平正芳大蔵大臣の述懐/極め付きは三次にわたる税収年度帰属区分変更 
第四節  消費税の算盤勘定はまだ赤字 

一般消費税の挫折と財政再建決議/平成元年度消費税導入/幻の国民福祉税から平成九年五%への引上げまで/税と社会保障の一体改革で一〇%に向けて

第五節  警告を発しなくなった市場


第五章 財政は誰のものか、進むべき道  
第一節  「財政は国民のもの」と訴えた福田赳夫大蔵大臣     
第二節  財政破綻は国民生活の破綻  

第三節  「インフレで借金帳消し」は危険な幻想 

第四節  財政破綻状態を招いた主要な要因と教訓(まとめ) 
ニクソン・ショック以来の円高恐怖症/受益と負担のアンバランスと将来へのツケ回し体質/市場からのブレーキの喪失

第五節  進むべき道 
最大の成長戦略は財政再建/現実直視(年金財政再計算の悪例)と国民の理解/目先のマイナス金利で気を緩めるな。

著者紹介

米澤 潤一(よねざわ・じゅんいち)
昭和38年、東京大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。主計局主計官、理財局国債課長、資金一課長、総務課長、同局次長、関税局長等を歴任。退官後日本銀行理事等を経て、平成16~24年(公財)金融情報システムセンター理事長。この間、政策研究大学院大学、同志社大学大学院等で客員教授・非常勤講師。著書・論文に『国債膨張の戦後史――1947-2013 現場からの証言』(きんざい、2013年)など多数有り。

『日本占領期性売買 GHQ関係資料』

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​            ミシェル・フロケ著、 大井 孝・土屋元訳

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