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『日本占領期性売買 GHQ関係資料』

立ち読み

競争と結合―資本主義的自由経済をめぐって

岡田与好

出版年月2014年12月

ISBNコード978-4-901916-42-4

本体価格  3,400円

A5判

頁数・縦208

 

解題(大澤真理)冒頭より 

 本書のテーマは、なによりも営業の自由と団結の捉えかたを通じて、自由主義とはなにか、基本的人権とは誰のものかを問い直すことにある(本書の第Ⅰ部および第Ⅱ部)。くわえて、経済史学と社会政策論にそくして、第二次世界大戦を画期として成立してきた日本の社会科学を、欧米の状況と対比しつつ、特徴づけている(本書の第Ⅲ部)。全体として本書は、一貫して自由主義の懐の深さに注意を促してこられた岡田与好先生の社会科学の真骨頂を示すといえる。
 本書の著者である岡田与好先生は、二〇一四年五月二七日に逝去された。本書は、岡田先生がみずから編まれ、校正もされ、序言を書きおろせば校了するまでに完成していたものである。その意味で本書は、後進によって――著者の意図を汲みつつも――編まれた遺稿集ではなく、岡田先生ご自身の著書である(各論考の初出は、本「解題」の末尾を参照)。
 残念なことに先生は、二〇〇一年三月に本書の第Ⅱ部第5章「歴史における社会と国家」の「〔追補〕「日産厚木事件」とはどのような事件か」を脱稿されたのち、体調を崩され、本書を完成されることはなかった。本書を作成するうえで先生が協力を求めたかたがたは、本書に「あとがき」を寄せてくださった樋口陽一氏、上記〔追補〕のために資料や助言を提供した田端博邦氏など、ごく限定されていたと思われる。しかも本書の校正刷は文字通りお蔵入りとなっており、より広い関係者が本書の校正刷の存在を知ったのは、先生が逝去されてからである。樋口氏による本書の「あとがき」に記されているように、本書の作成の最終段階でもなお、先生はその出版に躊躇されており、それもお蔵入りの背景かもしれない。
 そのような経過をへてこのたび、本書を刊行しようとするのは、岡田先生の追悼のためばかりではない。校正刷を拝読した関係者たちが、本書の今日的意義を確信し、これを広く世に問うことを研究者としての責務と考えるからである。関係者たちとは、岡田先生のご指導を親しく受けた廣田功、大沢真理、小野塚知二、石原俊時、矢後和彦である。
 本書の論考は一九八〇年代に執筆されたものが多いが、それらにおいて、いかにも岡田先生らしく情熱的に、しかも緻密に展開されているテーマは、今日の日本社会と社会科学にとって、痛切な意義をもっている。しかもその意義は、この数年間にもいっそう高まっている。まことに僭越ながら本稿を執筆させていただくのは、その意義を銘記するためである。
 以下では、まず営業の自由論争と自由論にそくして、岡田先生のご主張の要点とともに憲法学者による最近の積極的な反応を見る。つぎにその延長線上の論点でもあるが、岡田先生が福祉国家の自由主義的起源に留意されたことが、近年の比較福祉国家研究にたいしてもつ意義を確認したい。

 営業の自由論争と自由論
営業の自由というテーマは、なによりも「論争」として追究された。日本の法律学界や法曹界で「常識的定説」となっていた「営業の自由」概念にたいして、岡田先生は一九六九年に東京大学社会科学研究所編『基本的人権』第五巻に発表された論文において、経済史の立場から痛烈に異を唱えた。それを起点として、数年のあいだに二〇本を越える反論や関連論文が発表され、それは「営業の自由」論争または「法学=経済学論争」と呼ばれた。
 論争における岡田先生の主張と論争経過は、本書第Ⅰ部にくわしい。あえて要約すれば、岡田先生が挑戦した法学の「常識」とは、憲法二二条が規定する職業選択の自由には営業の自由が当然に含まれ、したがってそれは基本的人権=自由権の一環である、というものである。岡田先生によれば、そうした学説や解釈は、法人企業が国家の規制から自由に(我儘勝手に)ふるまい、個人の自由を抑圧することを、「基本的人権」の名のもとに擁護する結果になりかねない。法学の「常識」にたいする岡田先生の批判は、近代のイギリスやフランスにおいて確立してきた営業の自由が、なによりも独占および団結による取引や競争の制限からの自由であったという、経済史学の知見にもとづいていた。職業選択の自由が個人の自由権であるのにたいして、営業の自由は「公序」(国家による制度的保障)であると、先生は主張された。
 競争を制限する「団結」として、事業者によるカルテル(価格や生産量の協定、談合)やトラスト(株式の持ち合いや持ち株会社による企業結合)だけでなく、株式会社という形での有産者の結合も、労働者間の団結である労働組合も、歴史上問題となってきた。本書で株式会社や労働組合運動がくりかえしとりあげられるのも、そのためである。
 一九九二―九三年の時点で、岡田先生はご自分の議論を「依然として少数派」と位置づけ、岡田説を支持する「一部」の憲法学者として樋口陽一氏をあげておられる(本書第Ⅰ部第1章)。
 では、より後進の憲法学者は岡田説をどう見ているだろうか。結論からいえば、岡田説の要点の一つは、二〇〇〇年代には多くの憲法学説に受け入れられるにいたった。より広く、自由にかんする岡田先生の議論は、まさに今日の憲法学に重要な論点を投じ続けているといえる。
 たとえば二〇〇一年に出版された安藤高行編『憲法Ⅱ 基本的人権』では、第五章「経済的自由権」を神戸大学法学研究科の角松生史氏が執筆している。角松氏によれば、職業選択の自由と営業の自由を区別するべきという岡田説は、「今日多くの学説によって受け入れられている」。同時に、営業の自由が「公序」であるという岡田先生の主張は、憲法の解釈論として「支持を得ていない」と述べている(角松二〇〇一、二二〇―二一頁)。いっぽう東京大学法学政治学研究科で樋口氏の後継者となった石川健治氏は、一九九九年の編著『憲法の争点』第三版に寄せた論文「営業の自由とその規制」において、岡田説をとりあげる。石川氏によれば、岡田先生の主張を、経済史学という、法律学とは「異なるディシプリンによる、科学的認識」としてかたづけるのは、「的外れ」である。営業の自由論争は、「憲法典中の職業関連規定を構造的に理解する手掛かり」を与えている、というのである(石川一九九九、一二九頁)。
 二〇〇七年一〇月には早稲田大学で、大学一二五周年記念および比較法研究所創立五〇周年記念の事業としてシンポジウム「自由概念の比較史とその現代的位相」が開催された。笹倉秀雄氏、樋口陽一氏、石川健治氏の三氏が報告し、樋口氏と石川氏が、岡田先生の「営業の自由」論を、あらためて特徴づけている。樋口氏と石川氏は、いわば懐旧的に岡田説に言及したのではなく、今日の日本社会と社会科学にとってアクチュアルな問題に重要な示唆を与える説として、岡田先生に注目している。シンポ開催時の比較法研究所長として戒能通厚氏が述べた「企画趣旨」によれば、そもそもこのシンポが構想されたのは、早稲田大学法学研究科の院生たちを中心にインターカレッジでおこなわれていた通称「古典研究会」において、岡田先生の「一連の研究を検討」するなかでのことだったという(戒能二〇〇九)。続く...

目次

解 題  大沢 真理                
 第Ⅰ部 自由競争と団結権

第1章 競争の自由と団結の自由         
    ――市場史研究会(一九九二年五月)での講演記録―― 2 

第2章 「営業の自由」論争におけるわたくしの立場 24

第3章 ふたたび「営業の自由」について 49

第4章 競争と談合 58

 第Ⅱ部 日本労働組合運動史の特異性
第5章 歴史における社会と国家         
    ――日本労働組合運動史の特異性―― 64 

第6章 男女雇用機会均等法の理念         
    ――自由主義的婦選運動との関連で 99

第7章 労働組合と政治献金 103
 第Ⅲ部 経済史学と社会政策 
第8章 現代経済史学の成立 110 

付論1 経済史と社会史         
――M・ブロック著・森本芳樹訳『西欧中世の自然経済と貨幣経済』を読んで―― 148

付論2 革命的群衆の社会史的研究について
――G・ルフェーヴルとG・リューデ―― 156

第9章 社会政策とは何か 166    
岡田 与好 略歴・業績 194

あとがき  樋口 陽一 204

 

著者紹介

岡田与好(おかだともよし)

 東京大学名誉教授。1925 年神戸市に生まれる。48 年 東京大学経済学部経済学科入学。52 年東京大学社会科学研究所助手、56 年東北大学経済学部講師、57年同助教授。67年東京大学社会科学研究所助教授、69年同教授。76年同所長・東京大学評議員に併任。86 年亜細亜大学経済学部教授、88 年神奈川大学特任教授、90 年流通経済大学教授。
 著書に『イギリス初期労働立法の歴史的展開』(御茶の水書房、 1961 年)、『独占と営業の自由 ひとつの論争的研究』(木鐸社 、1975 年)、『自由経済の思想』(東京大学出版会、 1979 年)、『経済的自由主義 資本主義と自由』(東京大学出版会 、1987 年)など、共編著に『現代国家の歴史的源流』(東京大学出版会、1982 年)、樋口陽一・山室信一鼎談『政府・国家・民族 丸谷才一『裏声で歌へ君が代』を素材として』(木鐸社、 1983 年)など、多数あり。

16社協賛

出会った本はみな新刊だ!

専門書販売研究会は、2000年に人文・社会科学の専門書を発行している版元の4人の発起人によって「4社の会」として発足しました。小社の代表取締役である上野もその一人です。近年の、市場環境の変化は、専門書販売にとって厳しいものになりました。しかし長年研究を重ね出版された研究書・著作をうずもれさせてしまっては社会的損失と思い、「はじめてあった本は、いつも新刊」として読者へ・研究者へ・図書館へ書籍情報を発信することにしました。会員も増え「専門書販売研究会」と名称を変え、分野も多彩になり哲学・歴史・経済・農業・芸術まで網羅した会となりました。現在は16社で専門書の販売のための研究・情報を共有する活動をしております。
 これからも、コンセプト「はじめてあった本は、みな新刊」のもとに、日ごろ目にすることのない既刊書の再チャレンジを目指し、「こんな本もあったんだ」と言っていただけるように読者との出会いを目指します。​

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